益子。運命の器をさがして。

「急で申し訳ございませんが、明日お伺いできる時間はございますか?」


栃木県・益子市で行われる益子陶器市は、有田陶器市に次ぐ大規模な陶器イベント。出発前夜、出展する作家さんたちをインスタでチェックしていたら、中園晋作さんという陶芸家が「アトリエに来てみたい方はいますか?」というストーリーを投稿していた。

21時を回っていたので、流石に直前すぎて迷惑かな…と思う反面、陶芸家さんのアトリエにお邪魔できる機会もそうないのでダメ元でDMを送ってみた。翌日、益子駅に向かう真岡鐵道に乗っていると「何時頃がいいですか?」と返信をいただいた。



陶器市会場から車で10分ほど。山道を少し入った小高い丘の上に可愛らしいアトリエがあった。

もともと売りに出されていたこの物件を狙っていて、ようやく手に入れたらしい。今はまだ自分で改装しながら形にしている途中とのお話だった。

静かでゆったりした時間に満たされていて、陶器市会場の喧騒が嘘のようだった(陶器市の時期を除けば本来は静かな街なのだろうけど)。風が葉をこする。鳥が鳴く。虫が鳴く。自然がもたらすノイズキャンセリングに「静かな時間」は決して無音を意味しないのだな、と気がつく。

アトリエの中には、染め付け前の器や、(中園さん曰く)ちょっと出来が悪いとされる器が並んでいた。

関西から益子へ流れ着いた経緯。最近はどんなレストランで器が使われているか。なぜお客さんにアトリエを見てもらいたいと思ったか。そんなお話を伺いながら、妻と二人で美しい器を眺めていた。

眺めたり手に取ったりしているうちに、このアトリエに無造作に置いてある器たちに惹かれてきた。店頭に出される完璧な仕上がりの個体よりも、作家さんから見ると不完全とされる目の前の作品の方が愛着が持てる気がした。

「ここに並んでいる器は売っていただけるんですか?」と聞いたところ、「これで良いなら全然いいですよ」と快く販売してくれた。金額設定はあるようで無いらしく、かなりどんぶり勘定。「いや、安すぎだろ」とツッコミたくなるような金額だったので、思わず何度も確認してしまった。結局、素敵なアトリエに招いていただいた挙句、かなり安い金額で作品を販売いただくという状況になってしまいただただ恐縮してしまう。

購入させていただいた食器たち


翌日は陶器市の会場をぐるっと回って、何点か買い足したけれど、中園さんのアトリエから見えた風景が一番の思い出になった。

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