MENU
Instagram
Katsumi
本サイトの運営をしています。FUJIFILMのカメラと喫茶店と開高健の小説が好きです。

クロコダイル財布を購入。”一生もの”とコストの関係。

先日、財布を新調しました。

これまでは、GANZOのブライドルレザーの長財布や、万双のコードバン二つ折り財布を愛用していました。ラグジュアリー・ブランドというよりは、革好き界隈で評価されるブランドに惹かれます。ちょうどGANZOの財布を染め直しに出したタイミングも重なり、1つ買い足すことにしました。

何を買うか2ヶ月ほど悩んだ結果、最終的に購入したのは、意外にも自分には最も縁遠いと思っていたクロコダイルの財布でした。



一般的に高級品とされるクロコダイル革製品。一生モノとして購入を検討する方も多いかと思います。 しかしそこには、「価格が高いほど品質が良い」とは言えない、消費者からは見えづらい価格構造が存在します。

本当に良いものを、納得のいく適正な価格で手に入れるにはどうすればいいのか。 これは、数ヶ月にわたり理想のクロコダイル財布を追い求めた、思考と選択の記録です。

クロコダイル二つ折り財布
目次

“成金”な先入観を捨てて。クロコダイル財布の購入を考えるまで


これまで牛革や馬革の製品しか使ってこなかった自分にとって、クロコダイルの第一印象は「テカテカしていて、どこか成金っぽく、いやらしいもの」だった。サングラスに金時計、お腹の出たお金持ちや、どこぞのマダムが持っているイメージである。

しかし、クロコダイル革について調べるほどに、その先入観は消えていく。
あのテカテカ感は「シャイニング仕上げ」によるもので、落ち着いた「マット仕上げ」が存在すること。牛革や馬革ほど分かりやすくはないが、奥深く気品のあるエイジングが楽しめること。知れば知るほど、一生モノとして相応しい選択肢だと思えるようになった。

しかし、既製品で納得のいくクロコダイル財布を展開しているブランドはそう多くない。万双も扱ってはいるがいつも在庫がないし、サイズが用途に合わない。WILDSWANSは格好いいと思うものの、あの独特のコロンとした厚みが自分には馴染まない。

結果としてオーダーで仕立ててもらうという決断をしたが、ここから「価格と品質」の深い泥沼にハマることになる。

23万円のオーダー財布とアメ横の4万円の財布


既製品のクロコダイル財布は、黒やネイビー、あるいはヒマラヤといった定番色ばかりだ。人と被るのが嫌なので、ヌメ革や日常に馴染む渋めの色が欲しかった。

ちょうどその頃、Threadsで「クロコダイルの財布が欲しい」とつぶやいたところ、声をかけてくれた札幌の工房に見積もりをお願いした。予算は15万円ほどと伝えていたが、返ってきた提示額は23万円。いくら高級革とはいえ、財布ひとつに20万円超は流石に躊躇してしまう。

ならば、と上野のアメ横へ足を伸ばしたところ、5万円程度で既製品の二つ折り財布が売られていた。アメ横プラザに行くと、「Crocodile」と筆記体の怪しいロゴが入った財布が色々な店に並んでいる。おそらく台東区あたりのOEMを請け負う工房の製品が安く流入しているのだろう。ただ、よく観察すると縫製が雑で、どうしても愛着が湧きそうにない。「安かろう悪かろう」の壁に突き当たってしまった。

クロコダイル革製品には「相場」がない

23万円と4万円。なぜ、似たような二つ折り財布の値段がこれほど違うのか。自分で調べたりSNSで職人さんの助言をいただく中で分かってきたのは、牛革や馬革と比べ、クロコダイル製品は「値段があってないようなもの」だということだ。

「本当に品質が良い」「長く使える」「価格が妥当」な一品を見極めるには、それなりの知識が必要になる。何が価格を左右しているのか、その構造を見ていきたい。

クロコダイルの品種の違い

一般的にクロコダイル革は、スモールクロコ(ポロサス)、ナイルクロコ、ラージクロコ、シャムワニなどに分類される。

「腑(ふ)」と呼ばれるマス目状の模様が細かく整っているものが美しく高価とされ、スモールクロコやナイルクロコが高級とされる。グレードやサイズにもよるが、個人が買える問屋のオンラインショップでの仕入れ相場は、一枚革で10〜15万円ほどだ。ちなみに先述の札幌の工房は、ナイルクロコの仕入れで17万円かかると言っていた。

確かにワニの種類で価格は変動する。しかし、その違いだけで財布の売価が4万円から23万円に化けたりはしない。

※なお、エルメスなどの超一流メゾンは自社で養殖場を抱え、模様の美しさに加えて「個体差の少なさ」まで厳しく管理するため、コストの桁が全く異なる。

無双か中牛仕立てか

クロコダイルの財布は、内側まで全てクロコダイル革で作られた「無双タイプ」の方が高級とされる。内側に牛革を使う「中牛仕立て」は、やや価格帯が下がる。

とはいえ、中牛仕立てでも10万円以上するものもあれば、アメ横に行けば5万円で無双タイプが買えたりもするので構造の違いだけでこの価格差を説明するのは難しい。

一枚革の歩留まり(面積ロス)

クロコダイル一枚革



価格を最も大きく左右していたのは、革の「歩留まり(面積ロス)」だった。


今回、札幌の工房から提示された23万円(革代17万円+工賃等)に対し、私は「革代は財布に使う面積分だけの計算ですか?」と尋ねた。回答は「そうだ」とのことだったが、後からよく調べると、一枚革全体のコストがそのまま乗せられていたようだ。

この売価設定に疑問を持ち、Threadsで「オーダーの場合、一枚革の金額をすべて1つの財布に載せるのは普通でしょうか?」と投げかけてみた。

帰ってきた職人たちの回答は、「余った革は転用しにくいため、価格に載せざるを得ない」というものが多かった。クロコダイルの一枚革は牛や馬ほど大きくない。しかも、最も模様が綺麗な「お腹の中央」で財布を1つ切り出すと、残りは小さな端切れになってしまう。キーケースなどの小物は作れても、売れる保証がないため、結局一枚革丸ごとのコストを財布の価格に転嫁せざるを得ないのだ。

規模のあるメーカー(池田工芸など)であれば、同じ革から複数の財布や小物のパーツを切り出すことでロスを抑え、比較的抑えた価格で提供できる。しかし個人作家の場合、端切れで小物を作っても売れ残るリスクがあり、商売として成り立たない。特に定番以外の珍しい色を希望すると、ほぼ確実に一枚革全体のコストを負担することになる。

つまり、財布が高いか安いかは「革の質の差」以上に「作り手の生産コスト事情」に依存しているのだ。個人工房の多くは、このコスト高を「最高級革」「全て手縫い」「日本製」「一生モノ」といった言葉で再定義し、「良いものだから高い」というストーリーを作りたがる。消費者はこのコスト構造を冷静に見極める必要がある。

逗子の個人工房で、4万円でお譲りいただいた話

アトリエグリフォの工房


何人かの職人さんに見積もりを出してもらったが、希望するニュアンスカラー(オリーブやカーキ系、あるいはヌメ)で仕立てるなら、どう転んでも15万円以上はかかるという結論に至り、半ば諦めかけていた。

そんな時、たまたまInstagramで見つけたのが逗子にある「Atorie Glifo(アトリエ・グリフォ)」という工房だった。投稿されていたオリーブグリーンの財布が目にとまり、思い切ってDMで問い合わせたところ、「在庫品でよければ4万円程度でお譲りできます」との返答があった。

逗子は自宅と同じ沿線上でアクセスも良い。週末にお邪魔できないか打診したところ、快く迎えてくれた。逗子駅から車で20分ほど。鷲頭さんという職人さんが自宅の一部を改装し、お一人でバッグを中心に仕立てている静かなアトリエだ。


「うちはバッグがメインなので、財布などの小物はバッグを作った余り革(ハギレ)で作っているんです。色はあまり選べないんですけどね。安く提供させていただいています」


4万円という価格の理由に合点がいった。 実際に手に取らせてもらったオリーブグリーンの財布は、想像以上にしなやかで、深みのある色合いだった。ワニ革らしい力強さがありながら、既製品では滅多に見かけない絶妙なニュアンスカラー。一目で気に入ってしまった。同じ革から作ったという鷲頭さんの私物のキーケースのエイジングも素晴らしかったことが最後の決め手だった。

鷲頭さんの私物のキーケース。やや茶色味のあるエイジング。ミンクオイルで手入れしているらしい。

購入させていただいたオリーブグリーンの財布はこの投稿の4枚目以降に出てくるダレスバッグ作成時の端切れから作ったものだそう。

アトリエグリフォ
一枚革の実物も見せていただいた

作り手と向き合って買う、という体験の意味


購入が決まった後も、鷲頭さんはクロコダイルの一枚革を広げて見せてくれたり、制作工程の難しさについて詳しく話を聞かせてくれた。

職人さんのものづくりに対する情熱、素材への敬意。目の前で一枚革に触れながら直接対話する時間は、店舗で既製品を購入するのとは全く異なる、密度の濃い体験だった。

以前、浅草のWheel Robeのアトリエを訪れた時も、益子の陶芸作家の工房を訪ねた時も同じことを感じた。モノ自体のクオリティはもちろん大切だ。けれど私たちは、「作り手の想いや背景」に触れて手に入れた時、その道具に対して何倍もの深い愛着を抱くようになるのだと思う。



手元にあるオリーブのクロコダイル財布を見るたび、逗子の小さな工房で鷲頭さんお会いした日を思い出す。ブランドの記号を身に纏うのではなく、自身の感性と納得感で選んだこの小さな財布は、これから先の長い相棒になってくれそうだ。


あわせて読みたい
益子。運命の器をさがして。 「急で申し訳ございませんが、明日お伺いできる時間はございますか?」 栃木県・益子市で行われる益子陶器市は、有田陶器市に次ぐ大規模な陶器イベント。出発前夜、出展...
目次