リーガルもいいけれど。ここで少し浅草靴の話をしたい。

リーガルの次は、何を買おう?


3〜4万円の国産靴を履き込み、そろそろ次のステップへ、と考えたとき、ふと行き先に迷う。 もしあなたが、リーガルやスコッチグレインといった国産名靴を一通り経験したのなら、ぜひ、浅草という街に目を向けてみてほしい。「すべての日本の革靴は、浅草に通ず。」――そう言っても過言ではないほどの世界が、そこには広がっている。

目次

筆者の革靴歴

20代は百貨店にあるセメント製法で作られた25,000円程の革靴を履いていた。30代になり、リーガルやスコッチグレインのエントリーモデルを30,000〜40,000円で購入するようになり、30代半ばで少しグレードアップしてThe Master RegalやShetland Foxを履くようになった(当時で60,000円程)。そこから海外靴へ行こうかと悩むも浅草靴に出会い沼につかる。

海外靴ブランドの現在地


年齢と年収に応じて、靴にかける金額が上がる男性は多い。




では、次に向かう先はどこか?


革靴に8万円以上かけるようになると、おおよそファッションの趣向も固まってくる。そのため、次のステップはファッションの趣向に沿って散らばっていくことが多い。


紳士の王道たる英国靴が好きであれば、Church’s(チャーチ)やCrokett & Jones(クロケット&ジョーンズ)を経由して、最終的にJohn LobbやEdward Greenといった頂(いただき)を目指すだろう。Brooks BrothersやJ.Pressといったアメリカン・トラッドに傾倒した人(筆者はこのタイプ)であれば、G.H.BASS(ジーエイチバス)を経由し、Alden(オールデン)へ。他にもParaboot(パラブーツ)、J.M Weston(ジェイエムウェストン)といったフランス勢も普遍的な魅力がある。


しかし、2026年の今。海外ブランドの革靴は、あまりに高くなりすぎた。円安と材料費の高騰によって目も充てられない金額になっている。筆者の感覚では、ついこないだまでオールデンもクロケット&ジョーンズも6〜7万円だった。しかし今は10万円払っても買えない。


円安・材料費高騰に加え、海外靴の場合は関税(30%もしくは一足あたり4,300円のいずれか高い方)が重くのしかかる。「ブランド料」で済ませるには看過しずらいコスト構造になっているのだ。

次の目的地は浅草へ

「同じ金額を支払うなら、国産ブランドを選びたい」

海外ブランドのネームバリューには価値がある。それは間違いない。「良い靴は良い場所へ連れて行ってくれる」との諺の通り、どこか背筋が伸びるし、ブランドにふさわしい自分であろうとする。結果、高い靴は人生を豊かにするといっても過言ではない。しかしながら、かつて7万円だった靴が今では15万円もすることに、どうにも折り合いをつけ難い。

誤解を解くために書いておくと、価格の高騰自体に異議はない。靴メーカーやタンナーの職人さんの賃金は上がるべきだ。しかしながら、現在の価格高騰は為替による影響があまりに大きい。700ドルの靴は1ドル=100円の時代であれば70,000円だが、1ドル=150円の時代では10,5000円にもなる。加えて、輸入時に発生する関税・消費税は日本の港までの運送費も含めた価格を実勢レートで日本円に換算し、税率をかけて計算するため、元値が上がればこれら税金も引きずられて上がってしまう。

つまり、ここ数年の高騰はブランドや職人へ還元されるよりも、為替差損や税金に溶けていってしまった側面が強く、「一体何にお金を払っているのか?」という点で納得感が薄い。

年齢を重ねるごとに「何にお金を使いたいか」を重視するようになった。高価な海外靴を買っても、払った金額の多くが為替や税金に消えるのなら、国内ブランドの靴を購入した方が、より満足感を得られるのではないか?と考えるようになった。

浅草では、小規模ながら魅力的な靴作りを続けているブランドが多い。そういったブランドにお金を使うことが、自分にとって納得感があり、生活を豊かにしてくれるという直感があった。

リーガルは履いた。次は浅草だ。


記号から共感へ

「ブランドなんてただの記号だ。 原価は無名メーカーと変わらない。莫大な人件費や広告費が載っているに過ぎない。高額なブランド物を買う人間は騙されている。」

そういう考え方もある。しかし筆者自身は、ブランドが生み出す情緒的な価値というのは、その企業が長い歴史の中で積み上げてきたものであり、顧客との信頼の証でもあるため、ブランド物が高価であることについて異論はない。とかく、紳士靴という領域は、「社会的ステータス」「自分の努力の証」といった文脈で自己投影がされやすい側面がある。高価な靴を買うということは、機能的価値よりは情緒的な価値に突き動かされているケースがほとんどだ。


革靴でいえば、ジョンロブやエドワードグリーンといった最高級ブランドを所有することで得られるものがあるはずだ。一般的にはステータスや満足感と呼ばれる。もっとも、革靴に関しては価格と原価はある程度比例しているので、機能的価値(例えば、革の質)についても「無名ブランドと原価は同じ」なんてことはない。

一方、憧れのラグジュアリーブランドを追いかけるよりも、小規模なブランドを応援したいという人も多い。筆者は年齢とともに後者へシフトしてきた。


「ブランドの哲学や、見えやすいクラフトマンシップに共感したい。そういった物にこそお金を使いたい。ブランドが大きくなっていく様子を近くで見ていたい。」


なら浅草へ行くべきだ。


筆者が所有する「愛すべき浅草靴」たち





ここからは筆者が所有する浅草靴や、知っておきたいブランドを紹介したい。



Brother Bridge(ブラザーブリッジ)

筆者の所有するBrother BridgeのNEIL(ニール)



昨今の浅草のシューズ・シーンを語るにはBrother Bridgeは外すことができない。「大人の普段靴」をテーマに、ドレスシューズとミリタリー・ワーク系のテイストが絶妙に織り合うデザインが異彩を放つ。


ブランドのアイコン的存在はHenry(ヘンリー)。ボクサーシューズをモチーフとしたレースアップブーツだ。同社の靴で特徴的なのは、ヴィンテージカーフと呼ばれる柔らかく軽い革。履き込むとシワが多く入り、クタッとした印象になるので、好き嫌いは分かれるかも知れない。

筆者が所有するのはNEIL(ニール)というサービスシューズ。

サービスシューズ

軍で支給されていた革靴。レッドウィングのMIL-1などが有名。

購入当時


元々、DALERU(ダレル)という短靴が欲しくて2024年の夏に浅草の店舗に赴いたが、残念ながらすでに生産終了していた。ただ、「近いうちに似たような雰囲気のサービスシューズが出ますよ」と教えて頂き待っていたところ、2024年の暮れに発売されたのがNEILだった。

形は至ってシンプルなサービスシューズだが、とにかく履き心地が良い。柔らかいヴィンテージカーフによって足馴染みが非常に良くなっており、とにかく軽いので歩いていて疲れない。下手なスニーカーよりも疲れずに歩く事ができるので、筆者のワードローブの中では一番登場回数が多い。

購入から1年半が経過

WHEEL ROBE(ウィールローブ)

WHEEL ROBE / HEAVY STITCHING LOAFER




アメカジが好きなら一度は訪れて欲しいのがWheel Robeだ。


浅草にあるWHEEL ROBEのアトリエ


ホーウィン社のクロムエクセルを使用しているのが特徴。クロムエクセルは、簡単にいえばワークブーツによく使われる革。分厚く、無骨で、粘りがある。それをあえて、サービスシューズやローファーに使うというのがブランドの特徴。



筆者は2024年にローファを探していた頃に、Wheel RobeのHeavy Stitching Loaferに出会った。ボテっとした佇まいと重厚感のある縫い目が気に入って即決した。ただ、サイズがなく入荷待ちとなり、2025年の2月にようやく入手できた。



価格は5万円前後のものが多く、品質を考えると非常に安価と言える。

あえて言うならば、サイズ選びはやや難しい。クロムエクセルという革は非常に伸びる。筆者は7.5サイズを履いているが、購入当初はかなりキツくて半日履くと足が痛くなり、一日中履くのは無理だった。しかし、今は革が伸びてきて少し緩い。薄手のソックスだと踵が浮くので、やや厚めのソックスを履くようにしている。

温度でかなり伸び縮みするので、朝履く時はフィット感があるが、昼には緩くなる。関東圏に住んでいる方はぜひ浅草のアトリエでフィッティングして貰ってマイサイズを見つけて欲しい。

購入から1年4ヶ月程経過

KOKON(ココン)


このブランドを浅草靴に入れるかは正直悩ましい。 ブランド自体は石川県・金沢にあるのだが、製造を請け負っているのは浅草にあるジョーワークスというメーカー。

KOKON靴の製造元

2014年以前は浅草のセントラル靴が請け負っており、2014年以降、セントラル靴の職人が独立する形で立ち上げたジョーワークスにて製造。いずれにしても浅草で生産がされている。



基本的にはパターンオーダーかフルオーダー。金沢の他、東京の自由が丘にあるグロスター・ロードシューズショップでもオーダーが可能(筆者はこちらでお願いした)。

筆者が所有するのは、パターンオーダーのウィングチップ(423モデル)。価格はおよそ10万円。注文から4ヶ月で納品。Kokonは革に関しては、ワインハイマー、アノネイ、デュプイ、イルチアなど欧州の有名タンナーのものは一通り揃っている。だが、ファーストKokonは是非このショルダーレザーを検討してみて欲しい。

メダリオンを除いたオーダーも可能
インナーレザーの色は自由に選べる。筆者はパープルを選択。

ショルダーレザーは厚手で粘りがあり、エイジングが楽しめる。シボは型押しではなく天然のものなので、不均一。そのため、百貨店に並ぶような靴メーカーは使用を避ける革でもある。しかし、だからこそ良い。特につま先の部分の革の吊り込みは何とも言えない味がある。

4ヶ月も首を長くして靴の完成を待つ。始めてそんな体験をさせてくれたのがkokon。完成後、家に置いていたら、帰宅した妻が「革の香りが凄い」と言っていたほど、玄関が革の香りで満たされていた。それほどに素材が活かされている。

まだ1ヶ月も経っていないためクリームは入れずブラッシングのみ


浅草靴の購買体験




筆者が所有するBrother Brige、Wheel Robe、Kokon以外にも優れた靴メーカーは浅草に多く存在する。ブーツならRolling Dub TrioやSkoob。コードバンを使った革であれば、Rutt Shoes。

大量生産していないからこそ、職人の顔が見える。ものづくりにおいて、生産者と消費者の理想的な距離感。どのブランドもよほど運が良くなければ、店舗に行ったその日に買える事はない。在庫が入ってもすぐに売れてしまう。

まず店舗に足を運び、ブランドのお話を聞きながら、「どのモデルにしようか」「どの色にしようか」と悩みながらフィッティングをする。時間をかけてじっくり購入を決める。数ヶ月後、ようやく入荷の連絡があり、浮き足だって引き取りに行く。筆者はそのプロセスも含めて浅草靴を愛しているのだ。

目次