久しぶりに浅草へ。
コロナは完全に終息はしていないけれど、観光客の客足は少しずつ戻ってきているようだ。その光景に安心しつつも、また外国人観光客で溢れかえる街に戻っていくよく分からない寂しさも感じる。
JR浅草駅から徒歩15分くらい。
TX（つくばエクスプレス）の浅草駅の近く、浅草ビューホテルの裏手側に、「ピーター」という古い喫茶店がある。
駅から離れて見つかる本当のレトロ
浅草は「古きよき日本」を最も感じる街の一つだろう。
浅草寺があり、仲見世通りがあり、日本の伝統を感じる事ができる。
でも実際には、時代と共にかなりアップデートされていて、駅の近くのカフェは和モダンともいうべきスタイリッシュなものばかり。若者層や外国人観光客を相手にした周到なマーケティングと共に、「伝統的な日本文化」をパッケージとして商品化している節がある。
個人的な感覚では、浅草駅周辺には本当のレトロはもうほとんど残っていない。
観光地の宿命ではあるんだろうけど、「観光客が求めるレトロ」に寄せていくスタンスはどうにも好きになれない。本当のレトロとはもっと不便で無駄が多い。そういう「洗練されてない感じ」を込みで愛するのが本当の意味でのレトロ好きではないだろうか。
ただ、浅草も本当のレトロが全くないワケではない。
国際通りを渡ると、商業施設などは姿を消して、急に生活感溢れる街の姿に変貌する。観光の街ではなく、生活の町。人混みも考慮するとJR浅草駅から歩いて15分くらいだろうか。そこまで来てやっと本当のレトロが見つかる。
ピーターはそんな町の中に静かに佇んでいる。
とにかく色々と不揃いな喫茶店「ピーター」
ピーターを訪れたのは日曜日で、15時くらい。
もともと知っていた訳ではなくて、喫茶店をネットで探してたまたま出てきたので入る事にした。店に入ると、昭和の映画で見た様な風景に圧倒され、感動する。お客さんは１組だけ。
ただ、店員が来ない。
奥をのぞくと、どうやらおばあちゃんが一人で店を切り盛りしていて、キッチンに入っていてこちらに気がついていない。「すみません」と声をかけるも無反応。
「すみませ〜ん！！！！」
と声を張るとようやく気がついてくれた。
腰が曲がったおばあさんが出てきて一言。
「あ、カレー！？」
は？カレー・・・？
なんか会話になってない。とりあえず謎のカレーのことは無視して、「2人なんですけど、大丈夫ですか？」と聞くと「あ〜、新しいお客さんね！どうぞどうぞ」とようやくテーブルへ。どうやらオーダーをされたと思ったらしい。カレーの謎は、このピーターという店の名物がカレーらしいのだけど、この日はもうカレーが無かったのでとっさに「あっカレー？」と聞いてきた様子。
メニューはシンプル。
他の喫茶店との違いはカレーやらハヤシライスやらが充実している（けど、15時には売り切れていた）。
アイスコーヒーとピザトーストを注文する。
「ピザトーストもう無いのよ。パンが今日なくなって。あ、半分ならできるけどいい？ハーフサイズで」
それも無いのかい！と思いつつ、そこまでお腹が空いていた訳でもないので、ハーフで丁度いいかなと思い、ハーフサイズでお願いをした。そういう緩さもなんだか良い。
店の中は静かで、テレビの音と、キッチンでの作業の音だけが鳴り響いてる。私は妻と２人だったけど、無言でも何となく落ち着く空間だった。
タバコは吸わないけれど、灰皿がある店はなんか好き。
ピーターは分煙もされていないし、どの席にももれなく灰皿が置かれている。透明で重たい灰皿はどこかノスタルジックで美しい。私が子供の時は分煙という概念が世の中になかった。多分だけど、オフィスでも普通にタバコを吸ってたような今じゃ考えられない時代。
だからその意識の低さみたいなものが残っている喫茶店が好きでたまらない。道路で歩きタバコをしている奴の煙を吸うのはムカつくけど、喫茶店で他の席から漂ってくる香りはなぜか嫌いじゃない。
ピザトースト。
どこがハーフなのかよくわからない 笑
通常だと食パン2枚分なんだろうか。ハーフでよかった。
最初に来ていた１組が先に帰り、客は我々だけになった。相変わらず、聞こえるのはテレビの音とキッチンの音。閉ざされた昭和の空間。良い言葉が見つからないけれど、おばあちゃんの家の近所にあって欲しい喫茶店。そんな感じ。
今度行ったらカレーを食べてみたい。
ピーター
